トライアングル日本クラブ ロッキー岩島
トライアングル地区の日本人コミュニティーとして大震災で被害にあわれた方々に何らかのメッセージを届けたいという気持ちがこのイベントの出発点でしたが、その計画を立ち上げたちょうど同じ時期に当地を襲った竜巻の被害、自分たちの国のことだけを憂いている狭量な国民ではないはずと急遽「がんばれ!日本、トライアングル」とタイトルを変え、日本人コミュニティーからのボランティア10人で準備委員会を立ち上げたのが約1ヶ月前、そのイベントがDuke大学の大講堂Page Auditoriumを貸切って5月8日夕方に開催されました。参加してくださった方々は総数約400人、当初の見込みよりやや少なかったですが、当日が「母の日」と重なり、特にアメリカ人にとっては家族・親族が集まる大事な日であることを考慮すれば良しとすべきと考えています。半数以上が日本人の家族でしたが、それでもアメリカ人の家族の参加も予想を上回りました。当日集められた義援金は$2,300、大震災被害に対しては「プロジェクトKOKORO」、竜巻被害に対しては「トライアングル赤十字」へと2箇所に寄贈されることになりました。
イベント・プログラムは夕方6時の開演から、最後のキャンドルサービスまで含めると、途中のIntermissionをはさんで3時間。「よくこれだけ贅沢な出演者を集められましたね」という称賛の声を何人からもいただきましたし、司会のNancy Hamiltonさんも「It was a lovely show - alternately poignant and exhilarating, an unbelievable cast of performers. Kudos to the organizers! - an evening to remember.」とコメントを寄せて頂きました。合計すると20名もの出演者になりますが、どなたも快くボランティア出演を引き受けてくれたことと、その出演者をサポートするなど80名近くの日本人コミュニティーのボランティアが惜しみない協力を申し出てくれたことが今回のイベントを成功に導いてくれたと確信しております。今回のイベントに参加されなかった方々のために、少し長くなりますが、当日の誌上中継をここでさせていただこうと思います。
ラーレイ在住の大太鼓奏者、古川真規氏の心にしみ渡る「鎮魂おろし」その後の1分間の犠牲者の霊をいたむ「黙とう」が幕開けでした。アトランタ総領事館の首席領事宮森丈治氏による日本国民を代表した謝辞と米国竜巻被災者へのお悔やみのスピーチ、そして創設者のSougata Mukherjee氏からのプロジェクトKOKOROのご紹介と続きました。被災現場からの報告として地元News & Observer誌の写真記者で震災発生後11日目に現場に入った岩部高明氏のナレーションが入ったスライドショーが現場の悲惨さとその中でもたくましく復興にのぞんでいる被災者の表情を悲しく映し出してくれました。East Chapel Hill 高校1年生のHeba Bhatさんによる「Poseidonの怒り」という津波被害の恐ろしさとサムライ魂をもった人々の復興を信じた詩が作者自身の朗読で紹介されました。この詩はCarrboro詩コンテストで特別賞を授与されたものです。
「被災者の中には子供を失った母親も、母親を失った子供たちも沢山おられます。今日の母の日をこのように迎えられる我々の幸せをあらためてかみしめましょう」という司会者の紹介で、母の日スペシャルと銘打って、紅白の6羽の巨大な折鶴を持った12名の子供たちが入場し、舞台の上で待つ6人の母親にそれぞれその折鶴を手渡しました。その間は「母さんは夜なべををして手袋編んでくれた」で始まるメロディーを山本ユリさんがピアノで弾いてくれました。その折鶴はその後ずっと舞台の上で残りのPerformerを見守りました。次に舞台に上がったのは別の8人の子供たち、今度は生きているということの喜びを歌った谷川俊太郎の有名な詩「生きる」を大きな声でかわるがわる読み上げてくれました。舞台のスクリーンでは英訳が表示され、日本語の判らない参加者でもこの詩の意味を共有することができました。
この後のプログラムはすべて音楽家によるもの。トップバッターは当地でソロ演奏者として活動しているCatherine LeGrandさんによるフルート演奏、曲目は百人一首の女流歌人小野小町の和歌「花の色は」ともう一人の女流歌人式子内親王の和歌「玉の緒よ」に作曲家山田耕作がメロディーをつけた風雅な楽曲。プログラム前半の部の最後は、元メトロポリタン・オペラのスターだったChristine Weidingerさんによるソプラノ独唱、曲目はプッチーニ作曲によるオペラ「蝶々夫人」の中で、蝶々さんが帰らないピンカートンを待ちながら歌うあのあまりにも有名な悲しいアリア「ある晴れた日に」。その会場に響き渡る声量に多くの参加者は感動のあまり息を呑みました。ここでIntermission。
前半はどちらかというと、大震災被害者への追悼という意味のプログラムが中心でしたが、後半は困難に立ち向かっている被災者を励ますようなテーマに変わります。最初の演奏者はCaryのGreen Hope 高校の3年生、秋山拳君。日本人にとってはなじみのあるエレクトーンですが、多くのアメリカ人にとっては未知の楽器なのです。電子オルガンと説明しても、それがどんな音を出すのかは知らないというところでしょう。小柄な彼が引き始めたとたん、会場全体にある種の驚きのようなざわめきが走りました。これだけ多種多様な音色が一人の指先から出てくるとは想像もしてなかったからでしょう。日本のアニメからの曲目も含めて、彼は「元気が出るベスト・セレクション」として3曲弾いてくれました。3曲目にはとうとう「Bravo!」の掛け声までかかりました。
今回のイベントには日本以外の国々のコミュニティーからも出演の申し出をいくつも受けました。その中で選ばれたのがトルコ人コミュニティーからの民族舞踊グループAnatolian Wavesです。彼らは「Halay」と「Karadeniz」という黒海周辺のテンポの速いダイナミックな舞踊を選んでくれました。
次がトライアングル太鼓の出番です。最初の曲は精神障害をもったメンバーで構成されているスペシャル太鼓のメンバー6人がトライアングル太鼓のメンバーと一緒にたたく「三宅太鼓」。彼らは昨年10月に成田で開催された日本全国障害者太鼓大会に招聘され、1週間の滞在で大の日本フアンになりました。ちなみに一番気に入ったものはと聞くと「温泉」と「ラーメン」だそうです。その後はトライアングル太鼓のメンバーだけの演奏、曲はこのイベントのために特別に練習をかさねてきた「がんばれ、日本」、会場の参加者と一緒に「がんばれ、ニッポン」と唱和するところから始まります。アンプを使わない生の音が会場を震わせました。
最後の演奏者として舞台に上がったのは日系アメリカ人シンガーソングライターのLisa Furukawaさん、ピアノの弾き語りでまず彼女のオリジナルのバラードを2曲、透明感のある歌声で歌い上げてくれました。そのうちの一つは子供たちが朗読した詩「生きる」と同じ題名でした。そのままフィナーレとなり、Lisaさんの見事なリードの下で、1960年代に坂本九さんが歌って大ヒットした永六輔作詞中村八大作曲の「見上げてごらん夜の星を」を参加者が一緒に声を合わせて合唱しました。歌詞をしらないアメリカ人がスクリーンに写しだされたローマ字を一生懸命読みながら歌う姿が印象的でした。
まだ感激の余韻が残っている参加者がそのまま表に出ると、100個近い小さなキャンドルが目の前のDuke大学のチャペルの前庭で迎えてくれました。よく見ると一つ一つのキャンドルの袋の上には「まけるな日本」「きっと希望が見えてくる」など被災者を励ます言葉や絵が書かれていました。日本語補修校の生徒たちが書いてくれたメッセージです。その中央では岡村さん、潤子さんのデュオWasabi & Tearsが「涙そうそう」などの日本の歌をしずかに歌ってくれました、だんだんと濃くなってくる宵闇の中、沢山の去りがたい参加者がいつまでもキャンドルの光りの中で語らいを続けていました。
日本の被災者を思う気持ちをひとつにしたいと願う主催者側の思いと、参加者の感じた思いが一つになったイベントであったように感じました。